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楽器の演奏法

 




12)舞台での演奏

 

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〔舞台での演奏〕

会場の舞台の上での演奏とは 聴衆に向けたものです。多くの演奏家が一所懸命に演奏していまが しかし 演奏とは演奏が目的では無いのです。聴衆に聴いてもらうことが目的なのです。つまり 演奏とは伝達です。伝達とは 相手に伝わらなければ伝達ではありません。発信しても それが相手に届き かつ受け止めてもらわなければ伝達にはなっていません。しかし 多くの人がこれを理解していなくて 単に「発信」だけをしています。普段の生活で誰かと話すときのことを思い浮かべてみてください。自分の話を相手がどう受け止めているのかを観察していますか? ほとんどの人はしていません。発信するだけです。

演奏もこれと同じことです。多くの演奏家は「演奏」をしています。しかし 大事なのは「聴衆にどう届くか」なのです。つまりは「どう演奏するか」は 実は「どういう響きを聴いてほしいのか」なのです。会場の中での響きが「完成形」なのです。

ですから 会場では「どう演奏するか」以上に「どう響いているか」を確認しましょう。どういう響きで会場を満たしたいのか。どういう響きで聴衆を包み込みたいのか。どういう響きの中に自らと聴衆とを置きたいのか。「どう響かせたいから どう弾くのか」なのです。

 

〔会場の響き〕

会場によって 響きが違います。ピアノやオルガンの場合には会場備え付けのものを使うことがほとんどですので その楽器も場所によって違います。

音響が良い会場では 本当に演奏がしやすいです。世界の三大音楽ホールは「アムステルダム・コンセルトヘボウ」「ウィーン楽友協会ホール」「ボストンシンフォニーホール」です。これら 音響が良いとされている会場では 単に響きが良いという以上に 「出した音がその瞬間に生まれ出て更に会場の中で育っていく」のを感じられます。これらの会場では出した音の一つ一つがはっきりと聞こえますから 自ずと素晴しい音を出さざるを得なくなります。ということは ホールが演奏家をも育てるのです。

これを経験していると どういう響きのどの会場であっても そのようなつもりで演奏することが大事なのだということが分かります。

そうです 演奏というのは「想像=創造」なのですから 「つもり」なのです。「つもり」が積もり積もって「現実化」するのです。「つもり」は「なりきる」ということでもあります。その会場をどういう響きで満たしたいのか それをまずは頭の中で「なりきる」のです。家で練習するときにも その状態になりきるのです。そして会場でそれを実行するのです。家と会場とでは音響が違います。しかし いつでも「会場の中での響き」を思い描いていることで 実際に会場でそれを実現できるのです。

 

〔歩き方/お辞儀〕

舞台に登場する時の歩き方や お辞儀の仕方にはその人の人間性が現れます。そしてそれは 演奏以上に聴衆に印象付けられます。どういう楽曲をどう演奏するのか以上に 「自分はどういう人間なのか」が歩き方やお辞儀の仕方に現れているのです。

 

〔あがる〕

舞台に出る時に「あがる」人がいるようです。あがるのは基本的には「自分がしたくないことをする」状態です。したいことをする時にはあがりません。最も多いのは(そして認識されていないのは)「自分が本当にしたいのとは違う弾き方を先生に強要されている場合」です。これは「自分がしたくないことをする」状態です。しかし 先生は「良かれ」と思ってそれをさせているのです。(生徒本人に合っていようと合っていまいと。)

別の言い方をすると 「自分にとって不自然なことをすることから来る恐怖」が あがるということです。ところが その「不自然なこと」を認識していないということです。(ということは 生徒が舞台の上であがるのは 教師の教え方に問題があるという証しでもあります。)

ものごとを習得するのには 三つの段階があります。@知る A体験する B実感する です。これは演奏の場合には @習う/教わる/真似る A練習して体得(=自然に出来るように)する B習ったこと/教わったことから離れる という三つの段階に言い換えられます。音楽の場合にはBの段階で 演奏する楽曲と本当に向き合うことになります。

ですから あがるというのは基本的には まだBの段階まで行っていないということです。なぜ行っていないのか/行けていないのか? それは「習ったこと」「教わったこと」を参考にしながらも 「自分の中でのエネルギーの動き(速度と方向)をしっかりと観察し把握し管理する」ということができていないからです。

 

〔最高の贈りもの〕

演奏とは 祈りであり 祈りとは贈りものです。宇宙の中の全ての存在に対する贈りものです。

舞台の上では 遠慮は無用です。思いっきり力を抜いて(=身体からも頭からも心からも「自我=エゴ」を抜いて) 思いっきり自らを宇宙に委ねて 全ての音を「こんなに素晴しいんですよ!!」と 宇宙の全存在に向かって差し出しましょう。

 

 

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