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古典主義様式の始まり

~そのそもそもの目的と意味

《幸也の世界へようこそ》《書庫》《絵画を見る目・感じる心》 → 《古典様式の始まり~そのそもそもの目的と意味》


(ここでは 芸術様式の説明ではあっても
視覚芸術=美術=絵画・彫刻・建築)のみを扱っていて
それ以外の 音楽・文学・舞台芸術(=演劇・歌劇)・印刷書籍・織物などには触れていません。)



古典主義様式は 18世紀後半から 19世紀初めにかけての
アルプス以北における芸術様式です。

「古典」という言葉は そもそもは
「古いものを尊ぶ」ということですが
古代ギリシャ文化 古代ローマ文化を素晴らしいものとし
それを規範に新たなものを作り出すという意味合いで
したがって 美術の世界では「古典=古代の文化」であり
この時代のものは「新古典様式」と言われますが
音楽などでは (古代ギリシャや古代ローマ時代の音楽は後世に伝わっていませんので)
この時代のものを「古典様式」と言っています。
(「古典主義に基づいた様式」ということで
「古典主義様式」というのが正確な表現だと思われますが
ここでは「古典様式」と表記しています。)

ルネッサンスは 古代ギリシャ文化 古代ローマ文化を復活させようというものでしたので
日本ではしばしば「文芸復興」と訳されますが
古典主義もまた同様に 古代の文化を規範としています。

しかしその中身は違っています。
 

1)古典様式の始まり~ゲルマン文化

一見同じような「古代文化への憧れ」を基にしてはいても
ルネッサンス様式と古典様式とでは いろいろな違いがあります。
ルネッサンス様式は アルプス以南のラテン民族によるものでした。
ですので ラテン民族の「情緒的」「感覚的」な特色が反映されていて
理念よりも情緒が勝っているものでした。
しかし 古典様式はアルプス以北でゲルマン民族が始めたものです。
ゲルマン民族の「理性的」「合理的」「実質的」という特徴が
古典様式にも現れています。
まずは「理念」があって そこから表現が出てくるのです。

では どういう理念が優先されているのでしょうか?

ロマネスク様式以後の
ゴチック様式 ⇒ ルネッサンス様式 ⇒ バロック様式 ⇒ ロココ様式
というヨーロッパの芸術様式の流れは
結局は
「人間と神との繋がり」「人間と宇宙との繋がり」の認識が
だんだんと薄らいでいった という変遷なのです。

そして 18世紀に入ると
産業革命が起こりました。
石炭を熱源として使うことと 蒸気機関の発明によって
世の中がどんどんと工業化されていくようになりました。
そして 18世紀末にはフランス革命が起こり
王政(=封建制)が倒されて 民衆による
目政府状態=無秩序な世の中へと変わっていきます。

そういう中で
「人間という存在は何なのだろう?」
「人間として生きるということは どういうことなのだろう?」
という哲学的・観念的な疑問がゲルマン民族から出てきました。

マルティン・ルッターの宗教改革から250年たって
世の中が大きく変動していく中で
再び「人間にとって本来の生き方とはどういうことなのか?」を
再考する時がきたのです。

そして それを考えるに当たって
高度な文化であった古代ギリシャ・古代ローマから学び
そこに規範を求めるようになりました。

しかし 理性的なゲルマン民族が規範としたのは
情緒的な点ではありません。
古代ギリシャや古代ローマにおける
壮大かつ均整のとれた建築でした。
そこに「崇高さ」「均整」「秩序」といったものを感じたのです。
そしてそれを規範として生み出されたのが古典主義様式です。

「人間は 本来 ある秩序の中に生きているのではないだろうか?}
「世の中(あるいは宇宙)とは 本来 均整のとれているものなのではないだろうか?」
「私たち人間は 本来 崇高な存在なのではないだろうか?」
こういう疑問を 古代の文化を参考にして解き
その答えを形あるものとして表現する
それが古典主義様式なのです。


2)古典様式の始まり~産業革命とフランス革命

1720年ごろ ベルギーで石炭が熱源として使われるようになりました。
18世紀後半にはイギリスにおいて 蒸気機関が実用化されました。
これにより産業革命が始まります。
古典主義様式が始まったのは 産業革命が始まったのとほぼ同時期です。
そして古典様式の時代は すなわち産業革命の発展の時代と重なります。
それまでは全て「手作り」だったものが 機械で作られるようになりました。
そして 家で手作りをしていた「家内手工」から
工場で機械で作る「機械工業」へと変わっていくことで
たくさんの(主に親の農業を継げない)人たちが
都会にある工場で一日中働くようになります。
そして 工場は経営者=資本家によって経営され
その人たちが 富を蓄えていくようになります。

世の中が大きく変わっていきます。
国民の九割の農民から小作料を集める封建制が
成り立っていかなくなったのです。

そして フランス革命が起こります。
それまで人民を支配し管理し搾取してきた王侯貴族たちに対して
民衆がその怒りと恨みをぶつけたのです。
しかし そうやって「打倒王制」「打倒封建制」を掲げた暴れた民衆には
ではどういう世の中を作ろうという具体的建設的な考えはありませんでした。
ですから世の中は無秩序になっていったのです。
反王政・反封建制は反ロココ様式でもあります。
宮廷から出た様式であるロココ様式は
その表現が享楽的な貴族の生活を表したものとして
嫌われ 攻撃の対象とされるようになりました。

こういう時代に 理性的・観念的・思索的なゲルマン民族から
「安定」秩序」「理念」」を重視した表現として出てきたのが
古典様式です。


3)古典様式の特色

古典主義の特色は
☆均整
☆安定
☆重厚
☆非装飾性
☆ 四角
などです。
(これらは 音楽においても同様です。)
このような特色はすなわち ゲルマン民族の民族性の表れです。

ギリシャ神殿に見られるような 壮麗な 均整のとれた 重厚な形を規範としました。
古典主義絵画にもそれが充分に現れています。
そしてこの様式は フランス革命の後のナポレオン統治時代に
ナポレオンによって 絵画のみならず パリの街作りにも使われることになります。
古典主義様式は 帝国主義様式となっていったのです。

そこには 「個人の情緒」は表現されていません。
「全体の形」が最も重要なのです。
全体としてどれほど形が整っているか そして
安定して 重々しく見えるかが重要なのです。
それは「宇宙という秩序の中で 人間一人ひとりの喜怒哀楽は重要なことではない」
という表現でもあります。

ですから ルネッサンスやバロックが 人間の情緒や感情を重視したのに対して
古典様式はそれらは重視せず
「個人よりも全体」「動きよりも安定」「感情よりも理性」「混乱よりも秩序」
を特色としていて
それは
ロマネスク様式以後の
ゴチック様式 ⇒ ルネッサンス様式 ⇒ バロック様式 ⇒ ロココ様式
という流れにおいて
「より動きを」「より個人の感情を」表す方向へと変わっていった
それへの反動だということなのです。

古典主義様式を一言で言うと
「反動」です。

様式 形  理念  性 
ロマネスク 全体性・全一性 (全てはひとつ) 中性性
ゴチック  垂直線/尖り 神に人間の心を向ける(初期)/
神と人間との分離(後期)
男性性
ルネッサンス  三角 人間性の発露 女性性
バロック  斜め/螺旋 はったり 男性性
ロココ  曲線 軽薄 女性性
古典  四角 反動 男性性



4)古典様式の変遷と終演

しかし 変化を求めるのも人間です。
「安定」や「均整」や「秩序」ばかりでは堅苦しくなります。
そしてその中での人間一人ひとりの生の営みは無視されているようです。

これは 封建制から開放されれば幸せに生きられるであろうという思いから始まったフランス革命が
やがて ナポレオンがフランス帝国の国益のためとして多くの戦争をし
そこで死んでいく多数の兵士の 一人ひとりの死には関わっていらないという
個人個人の生命を軽視しているような世の中へと変わっていってしまったことへの
反発でもあります。

そして古典主義様式から ロマン主義の時代へと移っていきます。
「個人の感傷性の表現」である ロマン主義へと。


(2017年12月12日)

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