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楽器の演奏法

 



8)音色と身体

 

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身体の姿勢と音色の関係については すでにいくらか触れましたが ここでは身体の各部位についてもっと探求してみましょう。

 

@足/脚

どちらの足に体重を掛けるかによって音色が違うことはすでに説明しましたが 足のつま先の向きによっても違っています。例えば 右重心の時に右足のつま先を右に向けるとより明るい音になります。右捻りの時に同様にすると凝縮感が強調されます。同様に 左重心の時 あるいは 左捻りの時に左足のつま先を左に向けると 音色の傾向が強調されます。

足幅を開くと 重心が下に落ち 音が下に行き易くなります。爪先立ちにすると 音は上に行き易くなります。

 

また 基本的には 人間が立っている時には身体の重みは足の親指の付け根に主に掛かっています。そして更に 小指側と踵との三点で支持することによって立っています。これら三点のどこに重みを掛けるかで音が違ってきます。親指に重みを掛けるのかが最も「前向き」=「積極的」=「緊張」であり 小指 あるいは後ろ(=踵)にかけると「後ろ向き」=「消極的」=「弛緩」という違いになります。

例えば 身体の重みが踵に掛かっている状態で 幾ら前向きな積極的な雰囲気を出そうと思っても無理だということです。(ちなみに この「三点支持」が物を立てたり支えたりする基本です。最も安定するのが三点支持なのです。ですから弦楽器も基本的には楽器も三点支持 弓も三点支持です。) 

 

楽器の演奏を習うに当たって 足や脚について指導されることはまず無いかもしれませんけれども 実際には音質/音色にとても影響を与えていますので 足/脚の状態でどう音が変わるのか きちんと観察して捉えて調整しましょう。

 

A腰

腰の姿勢は 左右どちらかへの捻りと 前傾/後傾の傾きとがあります。腰の左右への捻りは 上半身の捻りや身体全体の捻りと同様の違いを生み出します。前傾/後傾は 上半身や身体全体の前傾/後傾と似た違いを生み出します。基本は やや前傾です。

 

B上半身

上半身を右(=時計回り方向)に捻るのと 左に捻るのとの違いはすでに説明しました。捻っていないのが中庸な状態です。

上半身(あるいは身体全体)を前に傾ける=前に体重を掛けるのと 後ろに傾ける=後ろに体重を掛けるのとの違いもすでに説明しました。どちらにも傾いていないのが中庸な状態です。中庸な状態を知っていることは重要です。しかし それを演奏の基本にするのは「味気無い」ことになります。演奏とは伝達なのです。伝達するということは「これを伝える」という積極性があるはずです。「聴いてもらっても 聴いてもらえなくてもどちらでも良い」というのが中庸な状態です。

ということは 演奏に当たっての上半身の基本の姿勢は やや前傾で やや右捻りで やや右重心ということになります。

ピアノや管楽器は 身体が左右不対象にはなり難いのですけれども 弦楽器の場合には極端に不対象になり易く かつ左に捻り易くなってしまいます。ですから 意識して逆向き(=右捻り)にするように 音質を確かめながら調整しましょう。勿論 単調の曲しか弾かないということであれば 左重心/左捻りでも良いのですが・・・

 

C胸

すでに触れましたが 胸の開き方で音色が違ってきます。音色というよりも演奏全体の傾向が違ってきます。気持ちが落ち込んでいる時/塞ぎこんでいる時/悲しい時などには 胸が閉じています。

(落ち込むという言い方がありますが 本当は押し込んでいるのです。それは閉じた状態です。)ですから そういう気持ちを音楽で表現したい時には胸を閉じている状態が適しています。逆に はつらつとした気持ちの時/明るい気持ちの時/楽しい気持ちの時には 胸は開いています。

猫背の人は いつでも胸が閉じ気味になっていますので 意識して開きましょう。いつも「地面に何か落ちていないかな」と探しているような姿勢ではなく 「今日はどんな宇宙船が来ているかな」と空を見上げる感じで。

 

D腕

腕の高さと 肘の曲がり具合でも音色が違ってきます。しかし これは楽器の演奏の場合にはかなり制約されます。グスタフ・マーラーは時々 管楽器を高く上げて演奏することを指示していますが これは音が出る部分を聴衆の方向に向けるというだけでは無く もう一つには腕の高さ/肘の角度で音色が変わるという違いをも含めたものです。楽器を上げるだけではなく肘も上げるとその効果が強調されます。 

 

E手首

左の手首は力が抜けて「虚」の状態 右の手首は充実していて「実」の状態であるのが基本です。

手首の角度によっても音色は違ってきます。基本的には 手首が「山」になっている状態では「決断」や「積極性」が 逆に手首が「谷」になっている状態では「決断できない」「消極性」が表れます。

弦楽器の場合には 左手首の角度はほとんどいつでも同じ(=山状態)ですが 弓を持つ右手の手首は弓の場所によって角度が違ってしまいます。元弓では手首が「山」になり 先弓では「谷」になります。ですから 先弓と下弓との音の違いの理由は 元弓は圧力が掛かりやすく 先弓では圧力が掛かりにくいからというだけではなくて 手首の角度の違いもまたその原因なのです。(ちなみに これを避けるために手首の角度をいつでも同じに保つのが「フランコ・ベルジュ派」の演奏法です。アルトゥール・グリュミオーやオーギュスティン・デュメイの演奏でそれを見ることが来ます。) コントラバスの場合には ドイツ式とフランス式との違いは ドイツ式の場合にはいつでも手首が「山」なのに対して フランス式の場合には元弓と先弓とで山になったり谷になったりと手首の角度が違ってしまうということです。

管楽器の場合には 他の楽器よりも手首の角度を自由に変えられるでしょう。

 

F指

手の指一本一本に それぞれの性格があります。これは それぞれの指が内臓や神経系と関わり合っているからです。どの指を使うかで音色が違ってきますが しかし管楽器の場合にはそれぞれの指がどのキーを押さえるかが決まっていますので キーを押さえている指では無く その制約の中でどの指に力を入れるかで変えていくことになります。弦楽器やピアノの場合には どの指で弦を押さえるか 鍵盤を叩くかをある程度選べますので管楽器よりは表現の幅が広がります。

左右それぞれ五本の指の内 右手の親指と人差し指とは身体全体の力を抜くことと関わっています。つまり この二本の指の力が抜けていれば 身体全体の力が抜けるということです。ということは この二本の指は「力が抜けている状態」であるべきです。右手の中指+薬指+小指は動きの向きを変える指です。この三本は「動きを司る」指であり ですので充実していることが基本です。(これは特に弦楽器の弓の持ち方で重要です。) 左手の指はこれと逆になります。親指+人差し指が動きと 中指+薬指+小指が身体の力の抜け具合と関連しています。(日本人は昔からこれを知っていましたから 剣術でも刀を操るのは右手の中指+薬指+小指と左の親指+人差し指とされ 料理でも包丁を動かすのは右手の中指+薬指+小指とされていました。)

【親指】 最も「感情」「情感」を乗せ易いのが親指です。特に左の親指ですので 弦楽器では左手の親指がどのくらいの圧力で棹と接しているかが感情表現の度合いに関わっています。そして弓を持つ右手の親指の力の入り具合(あるいは乗り方)によって演奏への情感の乗り方が違ってきます。親指を曲げると力が抜けやすくなり そうすると音に丸味が出ます。ピアノの場合には 昔はチェンバロやスピネットは親指無しで演奏していましたが それと同様のことを試してみれば情感の乗り方の違いが分かるかと思います。

【人差し指】 呼吸器と関わっていて 「前向き」なのがまさに「指差し」の形に表れています。しかし これは実は左の人差し指の性格なのです。右の人差し指は「感情を表現できない」指です。

これもまた 弦楽器で弓を持つ右手の人差し指の力が抜けていた方が良い理由の一つです。

【中指】 左の中指は「弛緩」であり「中立(中庸)」の指です。特に「どういう色合い」ということを籠めたく無い場合に向いている指です。右の中指は「緊張」「締まり」の指です。

【薬指】 「捻れ」「腰」と関わっています。「起承転結」の「転」の部分 あるいは「グッ」と(気持ちを含めた)力を籠める時や 粘りを出したい時などに向いている指です。

【小指】 頭と生殖器に関わっています。余り情感を籠めずに「理性的」に表現したい時には小指が向いています。弦楽器の場合には 右手の小指を弓から離してピンと立てるとその傾向を強調できます。しかし ピアノの場合には右手の小指が最上音として旋律線を受け持つことも多いのですけれども その場合には小指以外の指で全体の印象を調整していく必要があります。

 

G頭部

首を(=頭部を)右に傾けるのと左に傾けるのとでは 音色の違いも現れますが もう一つ外からは見えない違いが出てきます。首を右に傾けると左脳の活動が活発になります。逆に首を左に傾けると右脳の活動が活発になります。左脳とは「言語脳」と言われていて 言語を使った論理的な思考を司っています。それに対して右脳は「非言語脳」で 言語を使わない感覚的な思考を司っています。ということは 音楽は右脳領域が司るものなのです。しかし 音楽の専門家は音楽をきちんと観察し把握するように自らを鍛えています。その結果 ほとんどの専門の音楽家は音楽を左脳で聴いています。批判的に/批評的に/分析的に聴いているのです。しかし舞台の上で演奏する時には 演奏に集注すべきです。ですから右脳の方を働かせるべきです。そのためには首(=頭部)をやや左に傾けます。これはヴァイオリンやヴィオラの場合には自然とそうし易い姿勢です。

(ちなみに 普段その人が右脳を主に働かせているのか 左脳を使っているのかを判断する最も簡単なやり方は 腕の組み方を見ることです。腕を組む時に右腕を上にしている人は左脳を主に使っています。左腕を上にして腕を組む人は右脳を主に使っています。)

 

H顎

顎が上がっている状態は「不安」を表わします。表わしているというよりも 不安な時には顎が上がっているのです。ですからその状態で演奏すればそういう気持ちが表現しやすくなります。いわゆる「舞台であがる」という状態の時には 顎が上がっています。不安な時には決断は出来ません。演奏全体が「決まらない」ものになります。ですから顎は引いた状態が基本です。

 

 

これら 身体の各部位の状態と音色との関係を探求して そしてそれらを意識しなくても自然と楽曲の表情と同調して動くようになるまで練習しましょう。「同調して動く」とはすなわち「(意識しなくても)自然と動く」ということです。

 

 

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