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バロック様式の始まり

~その意味と目的

《幸也の世界へようこそ》《幸也の書庫》《絵画を見る目・感じる心》 → 《バロック様式の始まり~その意味と目的》


(ここでは 芸術様式の説明ではあっても
視覚芸術=美術=絵画・彫刻・建築)のみを扱っていて
それ以外の 音楽・文学・舞台芸術(=演劇・歌劇)・印刷・織物などには触れていません。)


バロック様式は 17世紀初めから18世紀半ばまで
すなわち1600年頃から1750年頃まで続いた芸術様式です。

芸術様式の移り代わりには つまり
どうしてひとつの様式から他の様式にとって代わられるのかは
それ以前の様式からの発展と それ以前の様式への反動と それ以前の様式の衰退と
と幾つかの理由が挙げられますけれども
バロック様式は それ以前のルネッサンス様式からの発展です。
発展であるということは すなわちバロック様式は
ルネッサンス様式と共通した特色を持っているということです。


1) バロック様式の始まり~宗教改革と反宗教改革

バロック様式の時代とは すなわち宗教改革と それに続く反宗教改革の時代です。
16世紀初めに起きた宗教改革は あっという間にアルプス以北のヨーロッパに広がりました。
カトリックの信者がどんどんプロテスタントに移っていき
ということは カトリックは信者の数がどんどん減りました。
信者数の減少とは すなわち 献金の減少です。
カトリックにとっての収入が少なくなるということです。
正統派キリスト教を名乗るローマ・カトリックは
宗教の名を騙った集金組織でしたから 収入が減るのは大変な痛手です。
そのために プロテスタントに移ってしまった信者を奪い返そうと反宗教改革運動を起こします。
しかしヨーロッパ内では 信者の獲得に限界があるので
更にヨーロッパ外への伝道=世界伝道へと乗り出します。

この ヨーロッパ内での反宗教改革運動と ヨーロッパ外での世界伝道と
これがバロック様式が生み出された時代であり
反宗教改革運動と 世界伝道のために使われたのがバロック様式でした。


2)バロック様式の始まり~その表現

バロック様式の表現の特色は
☆斜めの構図
☆ねじり=螺旋の動き
☆劇的表現
更に絵画においては
☆大きな画面
☆多数の登場人物
建築においては
☆(樽膨らみの)半円柱
☆過剰な装飾
☆立像・胸像
などです。

バロック様式が斜めの構図をとったのは ルネッサンス様式の三角形の構図からの発展です。
しかし ルネッサンスの三角形の構図では安定が表現されていましたが
(三角形は最も安定した形で 歪んだり崩れたりしません)
バロックの斜めは 動きを表現するためのものです。
垂直線や水平線は 動いていない状態を表しますが 斜めの線は動きを表します。
動きを表すためにもう一つ ねじり=螺旋が多用されました。

そして 全体としての動きを表現するために 劇的な表現がとられました。
その劇的な効果を出すために 絵画は大きな画面に描かれました。
そしてその大きな画面の中には 多数の人物が配置されて劇的効果を盛り上げました。

ではなぜ 動きの大きい劇的な表現をとったのでしょうか?
ヨーロッパ内での反宗教改革運動とは
すなわち宗教改革の側=新教=プロテスタントに移っていった人たちを
再びカトリックへと戻らせたいのですけれども
しかし ゲルマン系民族が理屈でカトリックへの戦いを挑んだのに対して
カトリックの方は それに理屈で応えることはできませんでした。
なぜならば カトリックの教義は嘘で固められたものだったからです。
正統派キリスト教を名乗っているローマ・カトリックは 実は
イエス・キリストとはほとんど関係がありません。
イエス・キリストの教えを実践し伝え広めているのではないのです。
それとは全く違うことを あるいは反したことを教義としているのです。
ローマ・カトリックは 人々に原罪の罪意識を押し付けることによって献金を集める
集金組織です。
宗教改革が起きた16世紀は すでにカトリックの説いていた天動説が否定され
大航海時代の始まりによって地球が丸いことが実証されて
カトリックの「地球は平面である」という説明も否定され
というように カトリックの言ってきたことが間違っていたことが
世の中の人々に知られるようになった時代です。
理屈で戦いを挑んだプロテスタントに対して
カトリックは理屈では応戦できなかったのです。
そして ローマ・カトリックの名の通り
カトリックの本拠地はイタリアのローマであり
すなわち アルプス以南のラテン系民族の土地です。
ラテン系民族は 理屈は苦手です。
情緒的で感覚的なのです。
そこで カトリックが反宗教改革のためにとった表現が
情緒に訴えるものになりました。
情緒に訴えるために劇的表現をとったのです。

世界伝道に当たっては そのために結成されたイエズス会が世界各地へと伝道に行きましたが
(実際には伝道という名の植民地化でしたが)
イエズス会の伝道者たちは 行った先々の土地の言葉を話せるわけではありません。
日本に来たフランシスコ・ザビエルも 日本語が話せたわけではありません。
ということは 言葉を使っての伝道はできません。
ですので ここでも情緒に訴えるやり方をしました。
大きな画面に描かれた劇的表現の絵は 言葉での説明無しに
「人目を惹き」「一目でインパクトを与える」ためのものです。

このように バロック様式が始まったその目的は
「カトリックによる反宗教改革運動と 世界伝道のための道具として」
ということになります。


しかし人間が表現するものは
意図して表現しているものと 意図せずに表現されてしまっているものとがあります。

バロック様式の斜めの構図とは 動きを表すという意図したものの表現だけではありません。
この時代にはカトリックの権威が揺らぎ 人々の信仰心が傾いた時代だったのです。
この 人々の傾いた信仰心が無意識に表れているのです。
そして 三角形が安定しているのに対して 斜めというのは支えが無く不安定です。
つまり 宗教改革と反宗教改革によって 世の中が混乱し 
カトリックも 世の中も 人々の心も 不安定になっている
その表れが斜めの構図なのです。

「捻り」というのは どういうエネルギーの動きかというと
例えば雑巾の水を絞るときには 捻ります。力をこめやすいのです。
「喧嘩腰」という言葉があります。腰をやや下げて 身体を捻っている様子です。
捻るというのは「反抗」の動きであり かつ力をこめやすいのです。
「反抗のために力をこめる」のが捻り です。
ということは カトリックの反宗教改革は
宗教改革=プロテスタント=反抗者に対する反撃だったわけですけれども
「反抗者に対する更なる反抗」という反宗教改革の本質が
意図せずに表れているのが このねじり=螺旋の表現なのです。

しかし バロック様式は 一体何を伝えたかったのでしょうか?
それは 無いのです。
「反抗への反対」ですから 何かの理念を伝えるためのものではないのです。
「売られた喧嘩は買った」ということに 理念はありません。
人々の情緒に訴えかえるための劇的表現というのは 結局は
「中身の無い はったり」なのです。

これもまた ルネッサンスからの発展です。
ルネッサンス様式が そもそもの理念を忘れて大衆受けする表現をとるようになったり
神という概念を忘れて 人間の身勝手さを表現するものになったりした
その延長にあるのが このバロック様式の「中身の無い はったり」の表現なのです。

バロック芸術は すなわちキリスト教ローマ・カトリックによる
反宗教改革運動における宣伝媒体でしたから
それはすなわち カトリック自身が中身の無い虚構であることを表現しているわけです。


3)バロック様式の終演

絵画におけるバロック芸術は
(今日で言うベルギーの)アントウェルペン(=アントワープ)で
ペーテル・パウル・リュベンス(日本で言うルーベンス)と
その共同制作者たちをはじめとする周辺の人々によって 大量に生み出されました。
宣伝文のことを「キャッチコピー」と言いますが
カトリックの宣伝媒体として使われたバロック芸術は 実際に大量に必要になったのです。
しかし その中心者であったリュベンスが亡くなると 急激に衰退してしまいます。

そして「中身の無い はったり」の表現も 人々から厭きられてしまいます。
そして 彫刻におけるバロック芸術も (イエズス会の教会を主とする)バロック建築も
次に出てきた(新)古典様式にとって代わられます。


(2017年11月12日)

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