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コントラバスの演奏法


 

先ずは「楽器の演奏法」をお読みください。

 

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【目次】

0)初めに

 

1)楽器の構え方

〔立奏と座奏〕

〔三点支持〕

2)右手〜弓の持ち方

 

〔ドイツ式とフランス式〕

〔ドイツ式弓の持ち方〕

〔コツ〕

〔練習〕

〔上下動の練習〕

〔左右動の練習〕

〔弓を弦に乗せる練習〕

〔腕の重みを乗せる練習〕

〔弓が弦に当たる位置〕

〔音の初め〕〔音の終わり〕

〔表情〕

3)左手〜弦の押さえ方

 

〔弦の押さえ方〕

〔ポジションの移動〕

〔ヴィブラートのかけ方〕

4)ピッツィカート

 

5)音楽を奏でる

〔独奏〕

6)合奏

 

〔合奏の基礎〕

〔発音のタイミング〕

〔全体を聴く〕

〔オーケストラの首席奏者〕

 

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0)初めに
コントラバスは 西洋のオーケストラで使われる楽器としては最大のものです。 楽器が大きいと 演奏が困難です。そして 表現の幅が狭くなります。 それがために多くのコントラバス奏者が 一所懸命にコントラバスを演奏していて しかし「音楽を奏でる」ということをしていません。 コントラバス奏者であることよりも 先ずは音楽家であることを目指すべきです。 (ですので 他の楽器も弾ける方が有利です。) 
もしも 音楽家では無いコントラバス奏者が教師として生徒を教えると その生徒も音楽家では無いコントラバス奏者にしかなりません。 その連鎖にしかならないのです。ですから 楽器の演奏法を学ぶのと並行して 音楽をも学ぶことを忘れないようにしましょう。

人それぞれで体型や体格が違います。ということは エネルギーの流れ方も違います。 ですから 誰にでも適用できる型はありません。 以下に挙げた様々な可能性の中から「自分に適したやり方」を見付けてください。

楽器を演奏する場合に 楽器に身体を合わせる人が(特に 楽器が大きいコントラバスでは)多く見受けられますけれども 身体に楽器を合わせます。楽器が主で 身体が従ではありません。身体が主で 楽器が従なのです。
 
練習の基本は「コツ」を掴むことと 余計なことはしない という二点です。 コツを掴まずに幾度も繰り返しても無意味です。 すでにできるようになった事を幾度も繰り返すのも無駄です。


1)楽器の構え方
〔立奏と座奏〕
楽器によって 立って演奏できるものと 椅子に腰掛けて演奏するものと そしてその両方共可能な楽器とがあります。 コントラバスの場合には 両方が可能です。多くの場合 オーケストラでは椅子を使っています。 では 独奏の時にはどうでしょうか? あるいは「基本」はどちらなのでしょうか?
コントラバスは 楽器そのものとして表現の幅が狭い楽器です。楽器が大きいので「鈍感」だからです。 それを補うには 身体の動きを最大限に使う必要があります。座奏の場合には 身体の動きが制限されます。 ですから表現の幅も制限されます。座奏の利点は 左手の動きが楽なるということです。 座奏では楽器は自ずと三点支持となり 楽器の構えが安定するからです。 表現力=演奏の表情の幅が狭くても 左手が楽に動かせた方が良いということであれば 座奏を選びます。 逆に 表現力=演奏の表情の幅の方が重要だということであれば立奏を選びます。

座奏

三点支持で楽器は安定する

左手の動きが楽

身体の動きが制限される=表現の幅が狭い

弦は弓の斜め下にある

立奏

三点支持が困難なので楽器が安定しない

 

身体が自由に動かせる=表現の幅が広い

弦は弓の横にある



〔三点支持〕
物を支える あるいは立たせる基本は「三点支持」です。三つの点で支えるということです。 (二点だけでは物は立ちません=安定しません。)
座奏の場合には 自然と三点支持になります。つまり 楽器は安定します。
立奏の場合には 床に触れているエンドピンと 身体(腹と腰の間)に触れている楽器との二ヵ所と 更にもう一ヶ所で支えないと安定した三点支持になりません。
人によっては 膝を使います。あるいは足先を使います。 しかしそれでは折角の立奏の利点である「身体の動きを使って表現を豊かにする」ことができなくなってしまいます。
人によっては なるべく楽器を垂直に立てて 二点支持で演奏します。 この場合には ハイポジションでの演奏が困難になります。 ハイポジションを使わない合奏の時などはこれでも良いかもしれません。 人によっては ローポジションでは左手の親指で ハイポジションでは肩で支えることで三点支持にしています。


2)弓の持ち方
〔ドイツ式とフランス式〕
コントラバスの弓には二種類あり 一つは「上から持つ=フランス式」 もう一つは「下から持つ=ドイツ式」です。 持ち方が違うので 弓そのものも違います。いわゆるフロッシュの部分がドイツ式の方が大きくなっています。 かつ ねじの部分がフランス式は金属製で短く ドイツ式は黒檀で長くなっています。
「上から持つ=フランス式」は 結局はヴァイオリン/ヴィオラ/チェロと同様の持ち方だということです。 つまり全ての弦楽器がヴァイオリン属として同属であるという前提に立っています。 フランスをはじめラテン語地域ではフランス式です。 フランス音楽をはじめとする 合奏において低音をゴーゴー鳴らさない音楽に向いています。
「下から持つ=ドイツ式」はコントラバスの前身であるヴィオローネから来たものです。 コントラバスは他の弦楽器とは違うんだという発想から 区別しているわけです。 当然のことながら ドイツではドイツ式です。 ドイツ音楽やロシア音楽のように 合奏の中で低音をしっかりと鳴らしたい場合には ドイツ式が向いています。
オーケストラによっては どちらの持ち方かを指定しています。 (つまり 違う持ち方では入団試験を受けられません。)

表現力においては ドイツ式の方が有利です。 フランス式の場合には 弓元と弓先との音質の違いが大きくなりやすいことと 親指が弓の下から当たるために表現に寄与できないこと 音量の幅が狭いことが理由です。 コントラバスが楽器として表現の幅が狭いということは すなわち「鈍感」だからです。 その鈍感な楽器で表情豊かに演奏するには それなりの工夫が必要です。 親指を弓の上から当てるドイツ式の方が親指での加減をしやすく ですから情感を乗せやすくなります。 (それぞれの指の機能に関しては「楽器の演奏法」を参照してください。)
もう一つ ドイツ式の利点は 動きを司る中指+薬指+小指の三本の指の可動性が良いことです。
そして 身体全体の弛緩に関わっている親指+人差し指の力が抜けやすい(=身体全体を弛緩させやすい)ことです。

〔ドイツ式弓の持ち方〕
ただし 「下から持つ=ドイツ式」にも 幾つかの持ち方があります。 親指を棹と平行にする(指全体を棹にかける)か 親指を棹にまたがせるかの違いと。 棹を親指と人差し指との間のどの部分に当てるかの違いです。
@親指の当たり方
親指を棹と平行にする(指全体を棹にかける)。 この持ち方の利点は 音に情感を乗せやすい=表情豊かな演奏をしやすいことと 弓に重みを自然に掛けやすいということです。 ただし 初めの内は親指の力を抜くのを習得するのに時間が掛かるかもしれません。
親指を棹にまたがせる。この持ち方は 初めから親指の力が抜きやすいので初心者には向いています。 しかし 親指を弓に乗せないということは 音に情感が乗せにくいということです。つまり情緒の無いスカスカした演奏になります。 ということは 逆に情感を乗せたくない現代音楽などには向いています。 また 弓に重みを掛けたい時にも不利です。あえて親指に力を入れなければなりません。 ただし 人によって親指が短い場合には この持ち方しか選択肢が無いということも有り得ます。
A棹を親指と人差し指との間のどの部分に当てるか
親指の付け根のそばに置くと 親指全体が棹に乗りやすいので有利になります。 ただしその場合には 手首が過剰に「山」になりがちです。もっとも 右の手首は常に充実している状態である方が良いので これも利点だと見ることもできます。
もっと人差し指の付け根の関節に近い所に置くことも出来ます。 この方が 親指が曲がりますので音に丸みが出ます。
棹を人差し指に置くこともできます。この場合には 親指は棹にほぼ直角に当たります。 この持ち方は 慣れるのにかなり時間が掛かります。 また 元弓の時に手首が谷になりやすくなります。(手首の「山」と「谷」の違いに関しては「楽器の演奏法」を参照してください。)  慣れると 最も腕を左右に楽に動かしやすいので 豪快な演奏に適しています。

〔コツ〕
いずれの持ち方にしても 基本は「脱力」であり ですので「親指+人差し指」の力は抜き 動きを司るのは「中指+薬指+小指」だということです。

〔練習〕
先ずは 弓を持つ練習からです。楽器無しで弓だけで持ち方に慣れます。
コントラバスが他の弦楽器と決定的に違う一つが 弦は弓の下ではなく横にあるということです。 つまり 弓は自然と弦には乗りません。ですから 弓先は下に落ちます。 落ちるものを落ちないようにするには 支えなければなりません。支えるには力が必要です。 その支える力を必要最小限にするように意識します。
弓を右手で持ったらば 弓先を左手で支えて 極限まで右手の力を抜きます。
左手を弓から離します。そうすると当然 弓先は下に落ちます。 落ちない場合には 力が入っているということです。 ですので 極限まで右手の力を抜くようにします。

弓の動きとは 「上下」と「左右」の組み合わせです。 「上下」とは弓を「持ち上げる/弦に下ろす」動き 「左右」とは「下げ弓/上げ弓」の動きです。
動きは「中指+薬指+小指」で作ることと 「親指+人差し指」は脱力していて動きにはほとんど参加しないことを常に意識します。

〔上下動の練習〕
弓を右手で持ち 弓先を左手で支えてから 弓を持っている右手を持ち上げて(より正確には 中指+薬指+小指で持ち上げて) 弓先を左手から離します。 左手で弓先を支えていた時と力の入り具合がほとんど変わらないようにします。

〔左右動の練習〕
同様に左手で弓先を持ったままで 弓を持っている右手を左右に動かします。 「ゆっくり/早く」(=速さ) 「長く/短く」(=長さ) 「先弓/中弓/元弓」(=場所)を各種で練習します。
次に 弓を弦に乗せ 弦の近くで左手で弓を支えて 右腕をなるべく早く左右に動かします。 (この時 音を出す必要はありません。)とにかく「サッ サッ 」っと動かします。 そして だんだんとその速度を遅くしていきます。 そして 弓をきちんと弦に乗せて 音を出します。

〔弓を弦に乗せる練習〕
そうやって 楽に弓を持つ感覚を体得できたらば 実際に弓を弦に乗せ音を出します。
練習の基本はロングトーンです。極限まで手の力を抜き 弓の重みが弦に乗っている状態を体得します。 「弓の重み」が弦に乗っているのと 「腕の重み」が乗っているのとは別です。 これもまた 左手で弓先を持って 右手の力の抜き加減と 弓の重みが弦に乗っている状態を体得します。
そして 移弦の練習。左手の練習をするようになったらば 音階でデタシェ/レガート/スタッカート それらを様々な調で 様々なリズムで練習します。

〔腕の重みを乗せる練習〕
ここまでは 弓を弦に乗せている状態でしたが 次に腕の重みを乗せます。 つまり腕の力を抜けば腕は下に落ちますから それが「重みを掛ける」ということです。押さえるのではありません。
先ずは 弓無しで 右腕をだんだんと前に上げ(る時に当然力を入れていますが) そしてパッと力を抜きます。 腕は下に落ちます。落ちないのは余計な力が入っているということです。 腕の力を抜く時には 肩の力と首の力も抜けているかどうかを確認しましょう。

〔弓が弦に当たる位置〕
弓が弦に当たる位置によって音色(というよりも 音の密度)が違います。 なぜならば 倍音の響き方が違ってくるからです。 ということは その位置の違いよって音色の違いを出せるということです。
基本の位置は 駒から弦の長さの「8分の1」から「16分の1」の範囲内です。 この範囲内が最も倍音が豊かで充実した音になります。 弦長が106cmであれば 駒から13.25cmが8分の1の位置です。 これは大雑把には 指板の端と駒との間です。

〔音の初め〕〔音の終わり〕
音の初め=弓が弦を振動させ始めるには 二つのやり方があります。
@弦の上に置いてある弓を動かす
A弓を空中で動かし始めてから 弦にぶつける
後者はスピッカート(飛ばし弓)の時などです。

音の終わりには 三種類あります。
@弓を動かしていたそのままの向きで動かしながら弦から離す
A弓を弦の上で止める
B弓を弦から離す瞬間に それまで動かしていたのと反対の方向に動かす
余韻がどう異なるのかをよく聴きましょう。

〔表情〕
音楽を演奏するというのは 音に表情を付けるということです。
弦楽器での演奏において 表情を付けるその多くは 右手にかかっています。
まずは 弓を持たずに 右手(手+指)をなるべく表情豊かに動かしてみます。
次に 右手を弓を持った形にし(しかし まだ弓は持ちません)なるべく表情豊かに動かしてみます。
そして 実際に弓を持って(しかし まだ楽器は持ちません)なるべく表情豊かに動かしてみます。
最後に 楽器も構えて 弓を持った右手をなるべく表情豊かに動かしてみます。
(これをすることで 弓のどの持ち方が最も自分に適しているのかも判ります。)
繰り返しになりますが 「楽器を演奏する」のが目的ではありません。 「音楽を奏でる」手段として楽器を演奏します。 それと同様に 弓を動かすのは 右手で表情を付けるためです。 あくまでも 右手が表情豊かに動く⇒その右手に弓を持って動かす⇒その弓が弦を鳴らす という順番です。


3)弦の押さえ方
左腕全体を下に下ろすようにして 左手の指を弦に乗せ重みを掛けます。 指で弦を押さえるというよりも 腕全体が下に落して重みを掛けるということです。
座奏の場合には楽器が安定して支えられていますから これがやり易いです。 しかし 立奏の場合には楽器が三点支持されておらず安定していないことと 楽器の角度が斜めでは無いことから 弦を押さえる指と反対側から棹に触れている親指とで挟むことになります。 けれども 挟むのでは無くあくまでも弦に指を乗せる=左手を手前に引くのが基本です。 つまり なるべく親指の力を抜くようにします。 しかし 親指を棹から離してしまうと 感情が乗らない情緒感の薄い演奏になります。
親指は 中指の反対側に来るはずです。
ハイポジションでは ローポジションよりも手を弦に乗せやすくなります。 弦に置き 重みを掛けるということです。腕の力を抜く時には 肩の力と首の力も抜けているかどうかを確認しましょう。 (つまり 肩も首も左右同じように力が抜けているかどうかを確認します。)

〔ポジション〕
「指で弦を押さえる」という意識ですと それぞれの指と一つ一つの音との関係になってしまいますが 「ポジションを押さえる」という意識を持つことで 速い動きの時にもその動き全体を把握することが出来るようになります。 つまり「指で弦を押さえる」というよりも 「ポジションで押さえる」という意識の方が 早く慣れることが出来ます。
一番初めは 第一ポジションから始めるかと思いますが 第一ポジションが最も指と指との間隔が広いですので 最も押さえにくくなります。 ですので 「ポジションで弦を押さえる」感覚を掴むには 第四ポジションあたりで始めた方が早いでしょう。
ごく初めのうちは 指板上のポジション(=指の場所)にテープなどで印を付けるのも助けになります。

〔ポジションの移動〕
ポジションの移動には「隣のポジションに行く」のと「離れたポジションに行く」のとの二種類がありますが 動きとしては「伸ばす」「ずらす」「飛ぶ」の三種類です。
隣のポジションに行く場合は「伸ばす」のと「ずらす」のとのどちらかです。 指を伸ばして隣のポジションに移行するか ポジションごとずらして移動するか です。 ずらす時に どのくらい弦に掛かっている指の圧力を抜くのか=弦を押さえている指の力を抜くのかを加減します。
離れたポジションに行くのは 「すらす」のか「飛ぶ」のかのどちらかです。しかし「飛ぶ」も
「ずらす」の変化形であって 指を弦から離してどこかに飛んでいくわけではありません。
演奏の基本は「想像する」「イメージする」ことです。 ですから どこのポジション(=場所)に移動するのかを先ずは頭の中でしっかりと想像します。 これ無しには目的地には到着しません。
そして 目的地は「目印」があった方が正確に到着できます。楽器の肩からの距離や 手や腕の角度がその目印になります。
 
〔ヴィブラートのかけ方〕
「楽器の演奏法」を参照してください。
先ずは 左手だけで ゆっくりの動きから始めます。あるいは 右手で動きを助けながら動かします。
重みが必要なところにだけ乗っていることと 不要な力が入っていないかを常に確認します。
  最終的には @きれいな波になる A速さを自由に変えられる B幅を自由に変えられる ようになることが目標です。


4)ピッツィカート
右手の指で弦を撥く(はじく)ことをピッツィカートと言います。
@どの指で撥くか A撥く(=指が弦に当たる)速度と強さ B弦に指が当たる位置 の三つによって 違う音になります。
まず @どの指で撥くかは 親指/人差し指/中指 のいずれかになります。
A撥く(=指が弦に当たる)速度と強さは 更には「指が弦に当たるまでの距離」「指が弦に当たる速度」「指が弦を弾く強さ」の三つに分類できます。 どういう撥き方をしても 弦の振動の速さは(音高で決まりますから)同じです。しかし 違う音が出ます。
基本的には これら三つの要素いずれも 音楽の表情に合わせることになります。
指が弦に当たるまでの距離が最も短いのは 指を弦に乗せた状態から撥くことです。 また 指が弦に当たる速度が遅い時には 弦までの距離は概ね短くなります。 重い感じを出したい時にはこの撥き方です。親指はこの撥き方に適しています。
音の強弱は 弦を撥く強さで決まります。
B弦に指が当たる位置は (弓が弦に当たる位置と同様に)弦の端に近ければ倍音が多く含まれる音になり 弦の中ほどになるほど倍音が少ない音になります。 つまり ぼけた音(あるいは柔らかい音)にしたい時には弦の中ほど はっきりとした音(あるいは 硬い音)にしたい時には弦の端に近いところです。


5)音楽を奏でる(独奏)
コントラバスの独奏をする場合には 幾つかの問題点があります。
先ずは 楽器として大きく そのために扱いが困難で かつ楽器としての感度が低い(=鈍感である)ということです。
そして コントラバスのために作曲された曲は 音楽的に優れているわけでは無いということです。 音楽的に弾く価値(=聴いてもらう価値)が無い曲を それでもあえて「コントラバスのための曲だから」と演奏するのは 聴衆に対して気の毒です。
そうすると 他の楽器のために作られた曲を編曲して演奏することになります。 その場合 他の楽器よりも鈍感な楽器であるということを聴いてもらうことになります。
それを解決するにはどうしたら良いでしょうか?
先ずは 曲を選ぶということです。
もう一つは 表現力を最大限に発揮するということです。
「コントラバスはこういう楽器」という思い込みを捨てましょう。
「コントラバスを演奏する」のでは無く 音楽を奏でましょう。

しかし 編曲ものを演奏する時に大事なのは 「コントラバスらしさ」をどの位出すか(あるいは出せるか) です。 本来は他の楽器のための曲を 無理してコントラバスで演奏しています というのを聴衆に聴いてもらいたいのでしょうか?  つまり 敢えてコントラバスで演奏するからには (原曲が何の楽器のための曲であっても)そのコントラバスの特徴を発揮した演奏を聴いてもらいましょう。 高いポジションばかりを使ってキーキーと弾いて 聴衆に「他の楽器で演奏した方がいいんじゃない?」と思わせるような演奏は避けたいものです。
  
練習のコツは「コツを掴む」ことです。つまり 練習とは「コツを掴む」ことです。 幾度も繰り返すことは「慣れる」のには役立ちますが しかし慣れることよりも大事なのは「コツを掴む」ことなのです。 なぜならば 「慣れ」は応用がききませんが 「コツを掴む」と応用がきくからです。 聴衆に聴いてもらいたいのは「慣れ」ではありません。 「掴んだコツ」を使って表現力を最大限に発揮した演奏なのです。

楽曲の練習は 先ずはその曲をどう響かせたいのかを決めます。 そして そう響かせるにはどう演奏するのかを決めます。これが完成形です。 この完成形を実現するために練習します。完成形が実現するまで練習します。 (出来ないことを出来るようにするための練習なのですから。)
その完成形を実現するためには「えっ こんなに大袈裟な表現をするの?」と思うこともあるかもしれません。 しかし 鈍感なコントラバスで音楽を聴いてもらうためには それだけ大きな表情の付け方が必要なのです。
(練習のやり方は「楽器の演奏法」を参照してください。

コントラバスの表現の幅の狭さは 音量の幅の狭さにも表われます。 音量(音の強弱)の変化よりも 表情の付け方と 発音(アタック)の変化 そして伴奏の音量の変化で調整すると良いでしょう。 また 弓は駒の近くで弦に当てた方が倍音豊かで「通る」音になります。

低い音域での速い音の動きは 高い音域での動きよりもホールの中ではっきりと聴き取りにくくなります。 ですので テンポも遅めにすることになります。
また 音の動きも低音の方がはっきりと聞き取りにくくなりますので レガートでも左手の指で弦を押さえる時に 押さえるというよりも叩く感じにする 指を弦から離す時には 指で弦を撥くようにすることで発音を明瞭にすることも助けになります。

これらもまた「ホールの中での響き」が完成形です。 聴衆が聴くのは「あなたがどう弾くか」では無く 音楽そのものなのです。 

コントラバスのために作曲された しかし 音楽的に素晴しいというわけでは無い曲を演奏する時にはどうしたら良いでしょうか?  演奏の基本は「作曲者が望んだとおりに」です。 しかし この場合には「作曲者が望んだよりも素晴しく」を目指すべきです。


6)合奏
合奏の中でのコントラバスの役割は「支える」ということがほとんどです。 これは 言葉でもそれが表れています。 Bass ベースとは「低音」であると共に「基礎」「基本」を意味しています。
ということは 合奏の中でのコントラバスは 全体の基礎なのですから 全体を把握しておくべきです。 上の方でチャラチャラと旋律を奏でている楽器は 全体のことを把握せずにチャラチャラとしていても良いかもしれません。 しかし 基礎であるコントラバスはそうではありません。 くどいようですが コントラバスは他の弦楽器よりも表現の幅が狭く つまり表現力が劣っています。 だからこそ 表情豊かに演奏する必要があります。そのためには全体を把握しておくことが大事なのです。

〔発音のタイミング〕
コントラバスは弦が長いですので 発音に時間がかかります。 つまり 他の弦楽器と同時に弓を動かし始めても 発音するのが他の楽器よりも遅くなります。 これはオルガンのパイプの鳴り方も同様で パイプオルガンの演奏をホールで聴いてみればすぐに分かります。 両手同時に鍵盤を押さえても 低音は聞こえてくるのが遅くなります。コントラバスも同じです。
これを解決するにはどうしたら良いでしょうか?
先ずは「そういうものだ」として放置することです。 先のパイプオルガンの例のように「低音は高音よりも聞こえるのが遅い」という事実をそのままにするということです。
もう一つは「同時に聞こえるように 速めに弓を動かし始める」ということです。 ホールの中での全体の響きを聴きながらそのタイミングを調整します。

これと同様に 残響も低音の方が長くなります。 オーケストラ全体で「パンッ」と短く鳴らした時に 低音だけ残響が残ってしまいます。 これを避けるには(=避けたいのであれば) 高音よりも短く弾くということです。 そして 弦の余振動(=弓で弾き終えた後の弦の振動)を押さえて止めます。 (特に ピッツィカートでの余振動は「鳴りっぱなし」にされることが多いようですので きちんと「どういう響き」ということを意図しましょう。)
カラヤンはこう言っています。「多くの音楽家が 音の始まりは意識しているけれども 音の終わりを意識していない」と。 実際に 多くのコントラバス奏者が 音の終わりを意識していません。

〔全体を聴く〕
ということは コントラバスの場合 他の楽器以上に「ホールの中での全体の響きを聴く」ことが大事なのです。
演奏とは「どう弾くか」ではありません。「どう聴こえて欲しいのか」=「どう響かせるか」なのです。 「どう聴こえて欲しい」=「どう響かせたい」から「どう弾くか」だという順番をしっかりと認識しましょう。

コントラバスと重なっている楽器(チェロ/ファゴット/チューバ/ティンパニ など)はどう演奏しているのかにも気を配ります。
旋律線を弾く時には 他の楽器は同じ旋律をどう演奏しているかにも気を配ります。
そして 指揮者がいる合奏(=オーケストラなど)では 指揮者の意図を読み取ります。
そして それ以前に作曲者の意図を楽譜から読み取ります。
合奏の中ですることは多いのです。

合奏の時 楽譜は読みません。見るだけです。つまり 楽譜を読んで演奏するのでは無く 見て演奏します。 例えば今 あなたはこの文章を「読んで」います。「見て」いるだけではありません。その違いを認識して下さい。 しかし合奏の中では楽譜は読みません。見たら自動的に音を出します。

〔オーケストラの首席奏者〕
首席奏者は そのグループ全体の責任を負っています。 ということは「自分がどう演奏する」というだけではありません。 「自分たちコントラバスグループがどう演奏する」ということに責任を負っています。 ですから後ろの奏者それぞれがどう演奏しているのかをも把握します。

昔のベルリンフィルのコンサートマスターだったミシェル・シュヴァルベ教授は 「彼が演奏する時にはオーケストラ全体の響きが違った」と言われています。 実際にそうでした。 主席コントラバス奏者だったライナー・ツェッペリッツ教授が弾く時には グループ全体の響きが違いました。 (ドイツでは首席奏者は交代制ですので複数います。)  彼らは「背中で感化する」ことができたのです。 単に一番前で弾いているだけでは無いのです。 そういうのが本当の首席奏者としての器です。



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