コントラバスの演奏法
2)弓の持ち方
〔ドイツ式とフランス式〕
コントラバスの弓には二種類あり 一つは「上から持つ=フランス式」 もう一つは「下から持つ=ドイツ式」です。 持ち方が違うので 弓そのものも違います。いわゆるフロッシュの部分がドイツ式の方が大きくなっています。 かつ ねじの部分がフランス式は金属製で短く ドイツ式は黒檀で長くなっています。
「上から持つ=フランス式」は 結局はヴァイオリン/ヴィオラ/チェロと同様の持ち方だということです。 つまり全ての弦楽器がヴァイオリン属として同属であるという前提に立っています。 フランスをはじめラテン語地域ではフランス式です。 フランス音楽をはじめとする 合奏において低音をゴーゴー鳴らさない音楽に向いています。
「下から持つ=ドイツ式」はコントラバスの前身であるヴィオローネから来たものです。 コントラバスは他の弦楽器とは違うんだという発想から 区別しているわけです。 当然のことながら ドイツではドイツ式です。 ドイツ音楽やロシア音楽のように 合奏の中で低音をしっかりと鳴らしたい場合には ドイツ式が向いています。
オーケストラによっては どちらの持ち方かを指定しています。 (つまり 違う持ち方では入団試験を受けられません。)
表現力においては ドイツ式の方が有利です。 フランス式の場合には 弓元と弓先との音質の違いが大きくなりやすいことと 親指が弓の下から当たるために表現に寄与できないこと 音量の幅が狭いことが理由です。 コントラバスが楽器として表現の幅が狭いということは すなわち「鈍感」だからです。 その鈍感な楽器で表情豊かに演奏するには それなりの工夫が必要です。 親指を弓の上から当てるドイツ式の方が親指での加減をしやすく ですから情感を乗せやすくなります。 (それぞれの指の機能に関しては「楽器の演奏法 8)音色と身体 F指」を参照してください。)
もう一つ ドイツ式の利点は 動きを司る中指+薬指+小指の三本の指の可動性が良いことです。
更に三つ目のドイツ式の利点は 手からのエネルギーの出方が多いということです。手は向きによってエネルギーの出方が違います。 (腕を体側に垂らした状態で)@掌を身体の側に向ける A掌を後ろに向ける B掌を前に向ける という順になります。 ドイツ式の持ち方の場合には 掌は身体の側を向きますので エネルギーの出が最も多いのです。
そして四つ目に 身体全体の弛緩に関わっている親指+人差し指の力が抜けやすい(=身体全体を弛緩させやすい)ことです。
〔ドイツ式弓の持ち方〕
ただし 「下から持つ=ドイツ式」にも 幾つかの持ち方があります。 親指を棹と平行にする(指全体を棹にかける)か 親指を棹にまたがせるかの違いと 棹を親指と人差し指との間のどの部分に当てるかの違いです。
@親指の当たり方
親指を棹と平行にする(指全体を棹にかける)。 この持ち方の利点は 音に情感を乗せやすい=表情豊かな演奏をしやすいことと 弓に重みを自然に掛けやすいということです。 ただし 初めの内は親指の力を抜くのを習得するのに時間が掛かるかもしれません。
親指を棹にまたがせる。この持ち方は 初めから親指の力が抜きやすいので初心者には向いています。 しかし 親指を弓に乗せないということは 音に情感が乗せにくいということです。つまり情緒の無いスカスカした演奏になります。 ということは 逆に情感を乗せたくない現代音楽などには向いています。 また 弓に重みを掛けたい時にも不利です。あえて親指に力を入れなければなりません。 ただし 人によって親指が短い場合には この持ち方しか選択肢が無いということも有り得ます。
A棹を親指と人差し指との間のどの部分に当てるか
親指の付け根のそばに置くと 親指全体が棹に乗りやすいので有利になります。 ただしその場合には 手首が過剰に「山」になりがちです。もっとも 右の手首は常に充実している状態である方が良いので これも利点だと見ることもできます。
もっと人差し指の付け根の関節に近い所に置くことも出来ます。 この方が 親指が曲がりますので音に丸みが出ます。
棹を人差し指に置くこともできます。この場合には 親指は棹にほぼ直角に当たります。 この持ち方は 慣れるのにかなり時間が掛かります。 また 元弓の時に手首が谷になりやすくなります。(手首の「山」と「谷」の違いに関しては「楽器の演奏法 8)音色と身体 E手首」を参照してください。) 慣れると 最も腕を左右に楽に動かしやすいので 豪快な演奏に適しています。
〔コツ〕
いずれの持ち方にしても 基本は「脱力」であり ですので「親指+人差し指」の力は抜き 動きを司るのは「中指+薬指+小指」だということです。
〔練習〕
先ずは 弓を持つ練習からです。楽器無しで弓だけで持ち方に慣れます。
コントラバスが他の弦楽器と決定的に違う一つが 弦は弓の下ではなく横にあるということです。 つまり 弓は自然と弦には乗りません。ですから 弓先は下に落ちます。 落ちるものを落ちないようにするには 支えなければなりません。支えるには力が必要です。 その支える力を必要最小限にするように意識します。
弓を右手で持ったらば 弓先を左手で支えて 極限まで右手の力を抜きます。
左手を弓から離します。そうすると当然 弓先は下に落ちます。 落ちない場合には 力が入っているということです。 ですので 極限まで右手の力を抜くようにします。
弓の動きとは 「上下」と「左右」の組み合わせです。 「上下」とは弓を「持ち上げる/弦に下ろす」動き 「左右」とは「下げ弓/上げ弓」の動きです。
動きは「中指+薬指+小指」で作ることと 「親指+人差し指」は脱力していて動きにはほとんど参加しないことを常に意識します。
〔上下動の練習〕
弓を右手で持ち 弓先を左手で支えてから 弓を持っている右手を持ち上げて(より正確には 中指+薬指+小指で持ち上げて) 弓先を左手から離します。 左手で弓先を支えていた時と力の入り具合がほとんど変わらないようにします。
〔左右動の練習〕
同様に左手で弓先を持ったままで 弓を持っている右手を左右に動かします。 「ゆっくり/早く」(=速さ) 「長く/短く」(=長さ) 「先弓/中弓/元弓」(=場所)を各種で練習します。
次に 弓を弦に乗せ 弦の近くで左手で弓を支えて 右腕をなるべく早く左右に動かします。 (この時 音を出す必要はありません。)とにかく「サッ サッ 」っと動かします。 そして だんだんとその速度を遅くしていきます。 そして 弓をきちんと弦に乗せて 音を出します。
〔弓を弦に乗せる練習〕
そうやって 楽に弓を持つ感覚を体得できたらば 実際に弓を弦に乗せ音を出します。
練習の基本はロングトーンです。極限まで手の力を抜き 弓の重みが弦に乗っている状態を体得します。 「弓の重み」が弦に乗っているのと 「腕の重み」が乗っているのとは別です。 これもまた 左手で弓先を持って 右手の力の抜き加減と 弓の重みが弦に乗っている状態を体得します。
そして 移弦の練習。左手の練習をするようになったらば 音階でデタシェ/レガート/スタッカート それらを様々な調で 様々なリズムで練習します。
〔腕の重みを乗せる練習〕
ここまでは 弓を弦に乗せている状態でしたが 次に腕の重みを乗せます。 つまり腕の力を抜けば腕は下に落ちますから それが「重みを掛ける」ということです。押さえるのではありません。
先ずは 弓無しで 右腕をだんだんと前に上げ(る時に当然力を入れていますが) そしてパッと力を抜きます。 腕は下に落ちます。落ちないのは余計な力が入っているということです。 腕の力を抜く時には 肩の力と首の力も抜けているかどうかを確認しましょう。
〔弓が弦に当たる位置〕
弓が弦に当たる位置によって音色(というよりも 音の密度)が違います。 なぜならば 倍音の響き方が違ってくるからです。 ということは その位置の違いよって音色の違いを出せるということです。
基本の位置は 駒から弦の長さの「8分の1」から「16分の1」の範囲内です。 この範囲内が最も倍音が豊かで充実した音になります。 弦長が106cmであれば 駒から13.25cmが8分の1の位置です。 これは大雑把には 指板の端と駒との間です。
〔音の初め〕〔音の終わり〕
音の初め=弓が弦を振動させ始めるには 二つのやり方があります。
@弦の上に置いてある弓を動かす
A弓を空中で動かし始めてから 弦にぶつける
後者はスピッカート(飛ばし弓)の時などです。
音の終わりには 三種類あります。
@弓を動かしていたそのままの向きで動かしながら弦から離す
A弓を弦の上で止める
B弓を弦から離す瞬間に それまで動かしていたのと反対の方向に動かす
余韻がどう異なるのかをよく聴きましょう。
〔表情〕
音楽を演奏するというのは 音に表情を付けるということです。
弦楽器での演奏において 表情を付けるその多くは 右手にかかっています。
まずは 弓を持たずに 右手(手+指)をなるべく表情豊かに動かしてみます。
次に 右手を弓を持った形にし(しかし まだ弓は持ちません)なるべく表情豊かに動かしてみます。
そして 実際に弓を持って(しかし まだ楽器は持ちません)なるべく表情豊かに動かしてみます。
最後に 楽器も構えて 弓を持った右手をなるべく表情豊かに動かしてみます。
(これをすることで 弓のどの持ち方が最も自分に適しているのかも判ります。)
繰り返しになりますが 「楽器を演奏する」のが目的ではありません。 「音楽を奏でる」手段として楽器を演奏します。 それと同様に 弓を動かすのは 右手で表情を付けるためです。 あくまでも 右手が表情豊かに動く⇒その右手に弓を持って動かす⇒その弓が弦を鳴らす という順番です。
【目次】
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〔立奏と座奏〕 〔三点支持〕 |
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〔ドイツ式とフランス式〕 〔ドイツ式弓の持ち方〕 〔コツ〕 〔練習〕 〔上下動の練習〕 〔左右動の練習〕 〔弓を弦に乗せる練習〕 〔腕の重みを乗せる練習〕 〔弓が弦に当たる位置〕 〔音の初め〕〔音の終わり〕 〔表情〕 |
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〔弦の押さえ方〕 〔ポジションの移動〕 〔ヴィブラートのかけ方〕 |
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〔独奏〕 |
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〔合奏の基礎〕 〔発音のタイミング〕 〔全体を聴く〕 〔オーケストラの首席奏者〕 |