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ベルギーの七大至宝

⑥ 「イカロスの墜落のある風景」

ピーテル・ブリューゲル作/1559年?/(ブリュッセル王立美術館)

《幸也の世界へようこそ》《幸也の書庫》《絵画を見る目・感じる心》《ベルギーの七大至宝》 → 《イカロスの墜落のある風景》


《人道主義者の見た神話》

Breughel_I_Landschap_met_Ikarus.jpg(56545 byte)

ピーテル・ブリューゲル(一世)による「イカロスの墜落のある風景」は
現在 ブリュッセルのベルギー王立美術館に展示されている作品です。
(ただし ブリューゲル自身の手によるものなのか 真偽は意見が分かれています。)
〔この作品についての詳しい解説は こちらをご覧下さい〕

【背景】
15世紀初めに北イタリアで始まったルネッサンスは ベルギーへはすぐには波及しませんでした。
ベルギーからイタリアに行った画家たちルネッサンスに触れて それを少しずつベルギーにもたらしました。
そして 16世紀に入る頃には ベルギーにおいてもルネッサンス様式は一般化しました。
つまり ゴチック様式の「神」を基本とした表現から
ルネッサンス様式の「世俗」を基本として表現へと変わっていったのです。
そういう中で 自身イタリアに行き ルネッサンスに直接に触れたにもかかわらず
絵のスタイルとしてはルネッサンス的ではない画風で独自の境地を切り開いたのがブリューゲルでした。

【作者】
ピーテル・ブリューゲルの人生については 詳しいことはほとんど分かっていません。
特に 誰から絵の注文を受けていたのか?=誰のために絵を描いていたのか?
=収入源は何だったのか? については何も分かっていません。
宗教=キリスト教を題材として絵を多く描いていはいますが
それが本当に宗教画(=祭壇画など祈りの対象)として描かれたのかは疑問です。
彼はヒューマニスト(人文主義者/人道主義者)であったと思われています。
そのような点では ルネッサンスの精神と合致しているようです。
また 彼は「農民画家」とも言われました。
農夫の格好をして 農村に行って 農民たちの生活の様子を描いたからです。
そして 諺の絵も多く描いています。
それは 宗教ではないものを人生の導きにしようという気持ちの表れなのかもしれません。

【イカロスの墜落のある風景】
「イカロスの墜落」はギリシャ神話です。
(ですので「ベルギーの七大至宝」で唯一 宗教作品ではありません。)
  墜落したイカロスは 足が二本海面から出ているだけです。
一緒に飛んだはずの父親の姿はありません。
太陽の熱で蝋が溶けたのに 太陽は随分と低い位置にあります。
漁夫も羊飼いも農夫も イカロスに注目していません。
漁夫は 海の魚を釣るのに随分と細い釣竿を使っています。
羊飼いは 羊に気を配っていません。
この絵は おかしなことだらけです。
ヒューマニスト=人道主義者として 彼はどのようにこの神話を捉えたのでしょうか?

【様式】
ルネッサンス絵画の特色である
①ぼけた輪郭線 ②三角の構図 ③はっきりとした遠近感 ④世俗的表現
⑤演劇的表現 ⑥(女性の)裸体 ⑦女性性の強調 などが
ブリューゲルのこの作品にはほとんど見られません。
ブリューゲルは 銅版画家として出発しましたので 油絵を描く時にも輪郭をはっきりさせています。
ブリューゲルの絵のほとんどは 俯瞰になっていて はっきりとした三角の構図や線的遠近法は感じさせません。
そして 俯瞰とは「神の目」からの見方ですので 世俗ではありません。
ブリューゲルのどの絵にも 裸体の女性は描かれていませんし 女性性の強調も見られません。
この絵も例外ではありません。

〔この作品についての詳しい解説は こちらをご覧下さい〕



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